2020年7月12日(日曜日)に行われた、TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD 2020の公開審査会により、今年度のグランプリが決定いたしました。
●グランプリ
羽地優太郎『イメージの棺桶』
2001年、沖縄県生まれ。東京綜合写真専門学校在学中。
テクノロジーの急速な発展が我々が住んでいるこの次元または、その物質性、非物質性が混在する現代は新たな感触が身を潜め、そして、私はそこに写真における芸術の探究価値があると考える。現代その写真における物質性、つまり紙媒体についてこれほどまでに問われている時代は、過去のダダ的存在意義とはまた違い、新たなフェーズに突入していると感じている。今日、そのほとんどの媒介者として支配している電子の板(ディスプレイ)といったその新たな次元の出現は、よりそれを際立たせている。しかし、それでも尚降臨し続ける、紙媒体はまさにカミ的エネルギーを感じさせざるをえない。私はそのエネルギーをアナロジー的、またはノスタルジー的に言及するのではなく、そのイメージを物理的世界へと閉じ込める、イメージのマテリアル性についての言及、つまり、そのモノ(オブジェクト)とイメージ間を取り結ぶ関係について考える為、そのほとんどのイメージが宿るマテリアルを、「イメージの棺桶」と呼び、そのイメージの物質的最終終着点への可能性を紙(今回は主に光沢紙を使用)という媒体を使い探究するべく、インクジェットプリンターと、光沢紙を軸として、本来の、そのイメージが棺桶化に至るまでの工程に、肉体的行為(テープを貼ったり剥がしたりする行為)と、装置的行為(スキャンやプリンターを使った出力行為)を挟むそのコミュニケーションをより意識的にアプローチすることで、新たなイメージの棺桶による形成を目論んだ。
●準グランプリ(2名)
松井祐生『Communities, influence me.』
1985年生まれ。駒沢大学院法学部を卒業度、独学で写真を学ぶ。2016年、写真新世紀優秀賞、2020年IMANEXTでグランプリを受賞。
たぶん私はたくさんのコミュニティに属している。きっとその中には私が知りもしない、或いは私とは無縁とさえ思っているコミュニティがあるのかもしれない。
私は知らず知らずの内に無数のコミュニティに触れあっていて、その影響を受けている。
高い場所から眼下に広がる都市の光景を眺めていると、私には夥しい数のコミュニティが常に変形しながらうごめいているように見えてしまう時がある。
夜、風呂場の中でいつかの事を思い出す。例えば友人と森に行った日の事、
私は「脳」というネットワークの中で友人とのコミュニティに、或いはその森のコミュニティに無意識のうちに入りこんでいる。その時、たぶん私も変形している。毎秒、私は変形している。
私だけではない。すべての人間が同じだろう。
すべて、この70億もの人間が数多のコミュニティに属し、変形しつつある。
けれども私は、たった1 人の私自身についてさえも知り得ていない。
登あらんや、他者についてをや。
だから私は、まずは自分自身について撮影してみることにした。
伊藤 颯『Iat e hay/干し草を食べた』
1997年生まれ。東京工芸大学写真学科卒業。
この作品は、john.F.Byrneの著書『Silent Years』を伏線として、暗号で書かれた自叙伝を制作することを試みた。
『Silent Years』は、煙草の箱に入るほどの小さな機械で転字暗号を用いて記述されている。
転字暗号とは文字の順序を変えるだけの単純な暗号だが、解読キーがないと他者による解読が最も難しいと言われている。
作品を見て何かを理解しようとすることや、緩やかな連関を持つイメージの集まりを紐解くことは暗号を読み解くことに似ていると考える。
本作は、日常における様々な箱の中で起きる事象やイメージを写真という記号を使って暗号化し記述した作品だ。
しかし、残念なことに解読するキーを失くしてしまった。
これは蓋を開ければ、たくさんの意味を所持する内容かもしれないし、もしかしたらなんの意味もない内容であるかもしれない。
●ホンマタカシ賞
小浜はるみ『The garden of Photographs』
●千葉雅也賞
石田浩亮『きみは振動するエネルギー』
●大山光平賞、川島崇志賞
村田 啓『Interstice』
●多和田有希賞
三谷 蒔『The Marginal Girl』
●後藤繁雄賞
あぽた へろ『Gold maskーエドガー・A ・ポーの他界の一瞥より一』
受賞者のみなさま、おめでとうございます。
グランプリ、準グランプリの3人の作品はNEOTOKYOZINEの一冊となって11月のTOKYO ART BOOK FAIRでリリースされます。ご期待ください。
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